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でも、次に投げかけられた橋本さんの問いに対する藤次郎の言葉は、あたしの心に大きな打撃を与えた。
「間宮次長は、加賀さんに目をかけすぎていると思います。失礼ですが、婚約者がいらっしゃる御身で、他の女性を特別扱いする行為は如何なものかと…」
「俺が、加賀をそういう目で見てる、とでも?」
「少なくとも、うちの課の社員の目には……」
「ふん」
首を傾げて、右手で顎鬚を触りながら視線は明後日の方向。
まるで興味のなさそうな、どうでもよさそうな、そんな態度。
「あいつとは長い付き合いだし、まあ、百パーセント他の女性社員と同等の扱いをしている、とは言い切れないな。でも、」
「…でも?」
「妹の枠は、越えないよ」
別に。
あたしだって、藤次郎をお兄ちゃんみたいな存在として見ていたわけだし。
妹、と言われたところで、そうだねお兄ちゃん、と答えることはいたって簡単。
でも、あたしには本当のお兄ちゃんが三人もいるわけで。
お母さんがどうしても女の子が欲しいって言うから、夜な夜な頑張ったとかで、透くんが生まれた七年後にようやくあたしが誕生したらしくて。
だから、昔から両親とお兄ちゃんたちの愛情を一身に受けて育ってきたわけで。
シスコンも甚だしいから彼氏ができなかった、とも言い訳しようと思えばできるわけで。
違うなぁ。あたしが言いたいのは、そういうことじゃない。
要は、お兄ちゃんは四人もいらないってこと。
藤次郎は、お兄ちゃんじゃないってこと。
・・・・・
近所のお兄ちゃんには変わりないけど、それは“ブラザー”じゃなくて。
ずっと、格好良くて、頭が良くて、面白くて、優しくて。
・・・・・
そんな憧れのお兄ちゃんだった。
ただ、それだけだった。
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