プロローグ

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あたしは部屋に視線を戻す。 …視界に何かが見えた。 はっとそちらに視線を向けると、扉から驚いた顔の少年が綺麗な花束を抱えて、立ち竦んでいた。 「…誰?」 遥と同い年くらいだろうか。 しっかりとした体格の中々のイケメンだ。 しかし返答には答えず、花束を取り落として走り去る。 いや、困るんだけど…。 暫くすると、バタバタと数名の足音が近づいてくる。 扉が全開になる。 そこには、白衣を着た男性と綺麗な女性がいた。 …あたしは知っている。この二人は"御堂遥"の両親だ。 けれど、どうしてだろう。 あたしの中で、違和感と警戒音が鳴り響く。 あたしは"何か"知っていた。 しかし、記憶と共に忘れてしまっている。 今思い出したところで、何か変わるわけではないことは分かっていた。 この状況こそが、イレギュラー。 "内部"から情報を、怪しまれないように得ることが先決だ。 "外部"の情報は、憶測に頼る傾向にある。 きっと、一時的な記憶障害。 思い出したときに照らし合わせればいい。 「……………か!遥!」 自分の名前ではないから、反応が遅れた。 ゆっくりと視線を向ける。 「良かった!目が覚めたのね!」 母・亜矢子が優しく抱き締めてくる。 「……おまえが無事に目覚めてくれて良かったよ。」 父・晴紀が不器用に笑う。 ……何だろう、彼の目が笑っていない気がする。 だが、憶測ではなにもわからない。 意識のし過ぎかもしれない。 …扉の外では、先ほどの少年が花束を拾い、心配そうに此方を見ていた。
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