プロローグ

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プロローグ

…桜舞う、優しい日差しの小春日和。 "あたし"は、ある病院の一室を見つめていた。 「ん………。」 起き上がりたいのに起き上がれない。 体が異常に重い…。 うっすら目を開けると、無数の点滴と酸素マスクが取り付けられていた。 この感覚…知っている? 点滴から流れている液体を鋭く睨む。 ……あれは微量だけれど、"毒"が混ざっている。 何故、わかるのか。それが、わからない。 それに…………。 『"あたし"は、誰?』 この体はあたしの体じゃない。"美堂遥"のものだ。 だってあたしは、彼女を"見ていた"んだから知っている。 彼女の情報なら、空で言える。 …けど、あたしは誰なんだろう。 どうして、この子のことを知っているのか。 そして何故、点滴に"毒"が混ざっていると確信しているのだろう。 多分、体の不調はこの点滴が原因だ。 この事実を早く伝えたい気持ちが逸るけれども、その相手も思い出せない。 あたしの脳内で警告が走る。 "まだ、材料は集まっていない"と。 感覚的にわかっているのは、別にあたしは探偵でも警察でもないということ。 では、何なのか。…振り出しだ。 何とか起き上がり、周りを眺める。 真っ白いVIP仕様の病室。二重のガラス張りの窓。 大きな木が聳(そび)え立ち、優しい日差しでキラキラと輝いていた。 …あたしははっとする。 "あたしはあの木の枝から見ていた"。
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