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「ねぇ、真朱ちゃん。バラされたくないよね? 自分の両親が死んだこととか、山都お兄ちゃんにこととか。学校に言いふらしたら困るよね」
だから、山都お兄ちゃんを私にちょうだいと揚羽は言った。ごまかしきれないと思った真朱は言う。
「山都様のことをどこで知ったか、しりませんけれど、彼のことを物みたいに扱うのやめてくれませんか?」
「へぇー、山都様、山都様ねぇ、あんたはそういうふうに呼んでるんだ。ゴミみたいな顔して腰を振るう、メスブタだと思ってたけど、ここまでだなんて思わなかったなぁ」
豹変した揚羽は自分の髪をガリガリと掻きながら、真っ赤な瞳を真朱に向けた。
「やっぱり殺したほうがいいのかも。そうすれば山都お兄ちゃんはきっと怒るよね。怒ってくれるよね。私のこときっと悪い子だって言って、いっぱい、いーっぱい、殴ってくれるよはずだよね」
ガリガリと頭をかきむしる、揚羽の行動に真朱は恐怖よりも、憐れみを感じた。なぜなら知っているからだ。かつて自分もそうだった、化け物に狙われ、誰にも助けを求められず、追い詰められた姿、何もかも犠牲にしてもいい。ただ、自分にまとわりついて離れない邪魔な鎖を断ち切るために生きている。けど、だけれど、いくらもがこうとその鎖が解かれることがない。それに彼女の真っ赤に染まった瞳は、あきらかにおかしい。
「裕樹や田奈を人質にして、脅そうと思ったけれど、もう面倒、どうせ、全員、殺すつもりだったんだから」
ガリガリとかきむしる、傷口から血が流れて、赤色の蝶が羽を広げた。
(山都様達と同じ力)
真朱は彼女が発現させた力を見ながら、後退した。陰火と鏡子は鏡の世界へ、山都は昨晩から出かけたまま、戻ってきていないさらに最悪なことに、部屋には田奈と裕樹がいる。事情を知らない彼らが巻き込まれれば、簡単に殺されてしまう。
「狙いは私、なんでしょう。だったら私だけを狙えばいいじゃないですか」
「お前だけじゃない。全員なんだよ。そうすれば山都お兄ちゃんはきっと私のこと怒ってくれる。叱ってくれる。私の××××になってくれる」
「え?」
「さっさと死ねよ」
ビッと片手を振り上げて、真朱に蝶をけしかけた頃、裕樹と田奈は、いつまでたっても戻ってこない二人を心配していた。
「なぁ、あいつら遅くないか?」
「ダメよ。人様の家なんだから勝手に出歩くわけにはいかないでしょ」
「そうかもしれないけどさ」
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