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蝶を引き連れて、揚羽は山都大聖に懇願したが、山都は拳を構えて、
「そりゃ無理だぜ」
山都は彼女の望みを切り捨てる。
「お前を叱ってくれる奴は、お前が殺したんだ。俺はお前の望みを叶えることはできない」
「ウソっ!! こんな奴、私の『お父さん』なんかじゃない!!」
赤色の蝶に命じて、山都大聖を殺すように命じる。クラスメートを傷つけ、親を殺したなのに、山都大聖はちっとも怒ってくれないどころか、今にも泣き出しそうな顔を向けてくる。
こんなのは山都大聖じゃない。山都大聖はこんな顔をしたりしない。山都大聖は、
「叱ってよ!! 私はこんなに悪い子なんだよ」
父親から溢れ出す、赤色の蝶を操り、山都大聖に向けた。叱ってほしかった。怒ってほしかった。そういう人がほしかった。
「お願いだよ。山都お兄ちゃん!!」
赤羽揚羽の父親は、揚羽のことを娘だと思ったことは一度もない。彼女が覚えているかぎり、世間的な父親とは大きくかけ離れてる、彼は自分の血に宿る不可思議の力だけに興味があると物心ついた頃には気づいていた。揚羽を出産すると同時に死亡した母と結婚したのも、彼女の力の研究が目的。
有能な科学者と呼ばれたのは、遠い昔の出来事で今は没落した無能な科学者、名誉挽回のために起死回生を狙うために自分の娘を実験台にした。
こんなのは親子じゃない。こんなのは虫かごの中に入った、芋虫が蝶になるのを眺めているだけ、自分の中に流れる血が流れるたびに、揚羽は背筋が寒くなる。父親がほしかった。優しくて、困った時に助けてくれて、でも時々、厳しく叱ってくれる父親がほしかった。
「…………」
山都は彼女の、攻撃を目の前にしながら構えを解いた。ダラリと手を下ろした。
「どういうつもりなの!? この量の蝶を受けたら死んじゃうんだよ!?」
「俺はお前を攻撃しない。お前の攻撃を全部、受け止める」
さらに山都は獅子の力を解除し、普通の人間の姿に戻ってしまう。もともと一晩中、蝶と戦っていたのだから、身体に無理をしていたかもしれないが、彼には疲労の色を見せない。本気で受け止めるつもりなのだ。ほんの少しだ。ほんの少しぶつけるだけで山都大聖は血を吸い尽くされて死ぬだけだ。
なのに、山都大聖は構えない。戦う意志、そのものを放棄してしまったように、真朱は思わず彼を守ろうとしたが、
「ほらな、できない」
彼に迫っていた蝶達が左右に分かれ揚羽のもと戻っていく。
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