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驚く真朱を置いて、山都は進む。一歩を踏み出す。揚羽が一歩、後ろに下がった。
「こいつはな。誰かに叱ってほしかったわけじゃない。誰かに知ってほしかったんだ」
「違う」
揚羽は言う。
「こんな力を持ってしまったら自分はまともな人間じゃない。誰を頼ればいいのかわからない。父親は自分の力を利用することしか考えない」
「嘘よ」
揚羽は言う。
「だから、わざと街中に赤色の蝶の噂を流した。人通りの少ない場所に動物の死骸を置いて、赤色の蝶の噂を流した」
「違うっ!!」
違う、違う。そんなの嘘と揚羽はバタバタと両手を降った。
「嘘じゃない。だったら、さっきのはなんだ? 俺を殺せたのに、殺さなかった。本当にやりたかったのはこれなのか?」
「………」
山都は揚羽と向かう、目をさらさず、彼女と同じ姿勢までしゃがみ、まっすぐ見つめる。
「怖かったんだよな? 仲間外れにされちゃうのが。一人ぼっちなっていくのが寂しくて、辛くて、怖かったんだよな?」
「私は、」
言葉にできなくても、彼女が流した。赤羽胡蝶は小学生だ。幼い精神、不安定な人格には蝶の力はあまりにも重過ぎた。友達と遊びたい。仲良くしたいでも、自分は化け物かもしれない恐怖が彼女を支配する。もしもバレてしまったら、自分は拒絶されてしまう。
叱ってほしいは、知ってほしい。怒ってほしいは、認めほしい。子供らしく素直になれない曖昧な心。
「大丈夫。大丈夫。な? 誰もお前を傷つけたりしねぇし、そんなやつがいたら俺が守ってやる」
「うん」
ギュッと山都に抱きついた。よしよしと頭を撫でてくれる、ずっとこうしたかった。安心した揚羽は蝶の力を解いた。
と同時だった。さっきまで耳から血を流して倒れていた、男が起き上がり、包丁を向けた。おそらく、揚羽が蝶の力を解いたことにより、彼の中の蝶の力も消えたのだろう。
「お、俺をバカにしやがって!! こ、殺してやる。揚羽も、全員、ブチ……ギャア!?」
「誰を殺すって?」
山都の拳が男の顔面に叩き込まれる。 揚羽を真朱に預けて、彼は男の胸倉を掴んだ。
「おい、もう一度、言ってみろよ。誰を殺すって言った!?」
男は鼻を殴られ、鼻血を吹き出してうまく喋れない。それがさらに山都の怒りを増大させていく。
「それだけは、それだけは言ったらダメだろ!! たとえ世界中を敵に回しても、味方なのが親だろうが!!」
叫ぶ。ただ、強く叫ぶ。
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