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「家族というのはいいものだよ。時には友や恋人よりも強固な絆になる」
あっそ。もう、一人にしてくれ」
シッシッと手を振って頬杖をつく山都に、織は言う。
「どうやら上の空のようだし、私は退散させてもらうよ。ただ、小耳に挟んだことだけれどね。来週、真朱達の小学校で授業参観があるらしいよ、楽しみだね」
「…………あっそ」
ヘッと山都は鼻を鳴らした。
来週、真朱達のクラスで、授業参観が行われていた。いつもより騒がしいクラスの後ろのほうに、児童の親達がズラリと並んで、作文の発表会を聞いていた。順番は真朱達に回ってきた。
「俺、ちょっと緊張してきた」「裕樹、さっきからうるさい。シャキッとしなさい」「わかってるよ」と答える、裕樹達の傍らで、真朱は横目で揚羽を見ていた。
「揚羽さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫。心配しなくてもいい」
フンッとそっぽを向く、揚羽は包帯で巻いた指先で髪を梳こうとして痛みで右目を閉じた。爪を剥いだ傷は、すぐに治るものではない。授業参観が中止になることはなかったが、親達の無遠慮な視線が揚羽に集まっている。
「私は平気だから」
と言ったときだった。廊下側から騒がしい声が聞こえてきた。
「だから、俺は真朱の保護者だって言ってんだろ!! いいじゃんか、融見、効かせてもよ」
「庭先からこっそり、覗こうとするやつが保護者なわけがあるか、そもそもなんだ。その頭は!!」
「うるせー!! あそこのババアみてみろよ。髪の毛、紫だぞ。あっちのほうが問題だ」
「誰がババアよ!! もう、先生、そんな不審者を早く連れ出してください!!」
「お前の厚化粧のほうがもっとも怪しいわ!! 化け物みたいな顔しやがって!!」
ガヤガヤと騒がしい、あの少年の声を聞いて、真朱と揚羽、裕樹、田奈は顔を見合わせた。
「山都さんだな」「山都の兄ちゃんだな」「……山都……さん」「…………」
「おお!! 真朱に揚羽、裕樹と田奈、見に来たぞ。おい、離せ。あいつらの発表、聞いたら帰るって、おい、俺のこと気にせずに始めろ」
ヘヘッと教師やババアに引っ張られながら山都と言い、真朱と揚羽は顔をみあわせて苦笑いした。
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