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つっ、泣いてないわよ。ちょっと目にゴミが入っただけで、うぅ、痛い」
「気にするな。自転車を乗れるようになるには、何度も転ぶのはあることだ」
倒れた自転車を立てながら、転んだ鏡子の土埃を払いながら言う。乗れるわよと意地を張る、鏡子にポンと陰火が肩に手を置いた。
「わたくし、鏡子のお手本、もっと見たいです」
「おい。陰火」
「止めないで、さっきも言ったでしょう。私はね、陰火に負けるのはとーーーーっても嫌なのよ。手伝いなさい。山都!!」
「お、おお」
「何を言ってるんですか。鏡子、貴女、一人でするんですよ」
「乗れないくせに偉そうな」
「乗れるのなら山都大聖の手伝いはいらないと思いますが?」
「ちょっと思い出すまで手伝わせるだけよ」
「まぁ、喧嘩するほど仲がいいってやつか」
自転車の荷台を支えつつ、山都は呟いた。彼女達はお互い、殺し合うほど憎み合っていたのだ。じゃれあう程度は目を瞑ろう。うんと山都が頷くが、その後、二人から違うと否定されたのは別の話。
その夜、ほぼ一日中、陰火と鏡子の自転車の練習に付き合い、クタクタになった山都は蛇目日傘にまとわりつかれていた。蛇のように山都の腕にギューッと抱きつきながら耳元で囁いた。
「ねぇ、山都くぅん? 今日、一日、どこに行ってたのぉ?」
「どこって、あー、どこだろうな」
陰火と鏡子の鋭い視線を感じて言葉を濁した。他の居候連中には秘密なのだ。特に真朱には、
「あーやーしぃーなぁー。山都くん。なんだか、陰火ちゃんと、鏡子ちゃんの匂いがするよぉ? もっとクンクンしたいなぁ」
「おい、くっつき過ぎだぞ」
クンクンと鼻をすりつけてくる、蛇目に若干、危機感を感じた。腕にギューッとしながら上目遣いで見上げてくる、蛇目の口元がニヤァと笑う。
「山都くぅん。私ねぇー、前々から思ってたけど、ロリ……んぐぅ!?」
山都はとっさに蛇目を抱え上げると、部屋の外に連れ出して廊下を突っ走り、外に出た。
「ハァハァ、山都くんが私を抱っこして、ギューッとして……ハァハァ、夢じゃないかなぁ。山都くん。私の頬をギューッとしてくれる?」
「おうっ、思いっきりしてやる」
「あーーーーーっ!!!!」
蛇目の頬を思いっきり引っ張り彼女を正気に戻したあと、山都は陰火達と自転車の練習をしていたことを教えた。
「自転車の練習? 陰火ちゃんや鏡子ちゃんと?」
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