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「ああ、チェックだけしておけ。十五分後にはそっちに帰る」
電話の向こうで、わかりました、と安堵した声が答えると紘斗は通話を切った。
「あなたの名刺、くれない?」
携帯電話を閉じるなり、唐突に彼女は口を開いた。
お嬢さまそのもののずうずうしさで不躾極まりない。
紘斗は目を細めて彼女を見下ろした。
紘斗の咎めに気づいたのか、彼女はばつが悪そうに目を逸らし、それからまた紘斗を見上げてきた。
「わたしは遠野姫良」
名乗る声が耳の奥で木魂した。
――良いお姫さまって書きます。
過去のシーンが鮮明に脳裡に浮かぶ。
姫良。
思わず声に出しそうになった。
めずらしく動揺じみて焦る。
そういう紘斗におかまいなしで、彼女は手に持っていた小さな紙切れを差しだした。
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