第8話 繰る糸-贈り物-

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* 紘斗が煙草を一本取りだすと、向かいに座っている美春が、テーブルに置いたジッポライターに手を伸ばしてきた。 「いい。自分でやる」 手を軽く上げて美春をさえぎった。 美春は手を引っこめ、ほんのわずかに肩をすくめた。 煙草に火をともし、ひと息吸ってすぐ吐きだした。 そのとき、店の奥にある長テーブルで歓声が沸いて、思わず目を向けた。 ここに座って何度めなのか、視線のさきの彼女と目が合った。 肩より少し長い髪がふわりと顔を縁取っていて、はしゃいでいる姿は一見勝気な感じもするが、全体的に繊細なイメージを受ける。 何か声をかけられたようで彼女が横を向く。 片方だけ耳に髪をかけていて、その剥きだしの耳はあどけない。 ひと目見た瞬間に幼い姿が重なった。 保証はない。
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