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昔、東京にいた頃はそれがあたりまえだったからこそ意識もしなかったが、福岡から上京してみると、東京は溢れんばかりに人が多い。
こんな限られた空間で廻り合う確率など、その数値は求められないほど低いはずだ。
感傷を振り払うように紘斗は首をひねり、煙草を灰皿に押しつけた。
「今日はうるさいわよね? あの子たち、ここの常連も常連。どこかのお嬢さまばっかりらしくて。お気楽よね」
紘斗のしぐさを違うように解釈したらしい美春が、彼女たちを見やった。
前田美春は同期で、一年まえ、営業部の内勤業務から社長秘書室へと抜擢された。
仕事ぶりの良さゆえにそうなったわけだが、その出世は美春にとってさらに自信になっているようだ。
いまの云い方からすれば、お嬢さまという立場をうらやんでいるのではなく、歯牙にも掛けないといったふうだ。
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