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『天狗のクーデター』そう呼ばれる異変が解決し、そこから時は流れ季節は幾度か巡っていた。人里はその異変の際に生じた災害じみたダメージから復興し、再び祭りを開催しようと活気に溢れている。だが、その活気に溢れる街並みを見ながら溜め息を吐く者が居た。
(祭りには来たいが、どうせ仕事が片付かないだろうしなぁ……はぁ……)
彼は心の中で呟くと、やや俯き加減で人里を通り過ぎた。
(……今日はヤケに騒がしいな)
人里を通り過ぎた彼は迷いの竹林へと足を踏み入れていた。彼は竹林の様子が何時もと違う事を肌で感じていた。竹林に巣くう妖怪が執拗に彼を狙っているのだ。妖怪共は本来、竹林の霧に身を隠し隙を付いて襲いかかっていくタイプである。しかし今日はあからさまに殺気を剥き出しに、音を立てながら、まるで狙っている事をアピールするかの様に潜んでいるのだ。最早、潜む気などないように思えるが。
彼が警戒した瞬間、陰から妖怪が飛び出してきた。彼は体を少し仰け反らせる。妖怪は彼の眼前を通り抜け、また霧の中へと消えて行った。
「チッ……」
彼は少しばかり焦った。回避に関してではない。彼は本からギリギリで回避するつもりだったのだから、舌打ちをする原因はそこではない。妖怪が予想以上に早く襲いかかってきたからだ。更に竹林の妖怪の特性上、一匹が飛びかかってきたら数秒後には複数が襲いかかってくる。だから彼は舌打ちをしたのだ。
彼はあまり戦闘が好きではないし、今回も戦闘をしようとは思っていない。せっかくの休暇に余計な体力を使いたくないと言うのが本音だった。
が、数秒後には複数の妖怪が襲いかかってくるこの現実にどうこう言っていられる余裕は無い。とは言うものの、複数の妖怪を相手にして効率良く妖怪を撃破出来る戦法を彼は思いつけないでいた。
(……どうする、俺)
頭を捻っている内にも霧の中から影が動いた。妖怪が動き出したのだ。
「仕方ねぇ……GYAAAAAAS」
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