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「気が付いたか?」
ん、これは夢かしら? 確かお届けものが家に届いて、そのお煎餅を食べたら眠くなってきたんだっけ。
って、ちょっと待ってよ。何よこれ?
口に何か噛まされている?
腕も交差してから椅子に縛られている。
足も椅子に固定されているの?
椅子自体も床に固定されているみたい。体を揺すってもピクリともしないじゃない。
一体何が起こっているのよ!
「これからお前に与えられるものは死ではない。それだけは強調しておく」
何か取り憑かれたような女が立っている。
誰であろうがこんなことが許されるはずがないわ。
私は抵抗した。
といっても「んーーー」と複数回叫ぶのがやっとだったけど。
「大声を出して人を呼ぶのは正しい作戦かもな。しかし、私がそれを想定していないと思うか?」
不意に涙が両頬を伝った。
「ここは、とある金持ちが売り払ったデザイナーズハウスの地下ワインセラーだ。お前の位置からじゃ見えないかなぁ、奥にある階段の上にしか外部とやり取りできる空間が無い。目張りもしてある。お前の声は届かない」
鼻息が勢いよく何度も噴出し、涙が溢れ出た。
よくよく見れば、その女のテーブルの脇に置いてある道具はやたら物騒なものばかり。
「私は平等性を重んじる。どんな時であろうともだ。私はお前のような存在ではない」
その女は何やらを言っているが、何の意味があるのかどうか分かんない。私、軽いパニック状態ってやつなの?
「誰かって顔をしているのか? 私の名前は西宮紀子。お前が弄び、殺した西宮和美の姉だ」
思い出した。そうだ、この声はブスミヤだ。緊張していた筋肉が弛緩していくのが感じられた。
そう、ブスミヤお疲れ様、そうか、声が出ないんだっけ。
「お、表情に変化があったな。どうやらお前は、私が西宮紀子であることを忘れて恐怖を感じていたが、あの『ブスミヤ』が相手ならと安堵したのだろう」
再び全身が強ばっていくのが分かった。こいつマジだ。毛穴がブワッと開く。
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