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「オ・カ・ア・サ・ン オ・カ・ア・サ・ン」
私はお母さんの唇に語りかける。
目も手も声も無い私とお母さんを繋ぐもの、それは口づけした状態でしゃべること。
ブスミヤは、本当に私を殺さなかった。
だけど、最大レベルのダメージを私の身体と精神に与えた。
あの日、ブスミヤは私に薬も使った。
おそらく脳内のいろんな物質の流れをおかしくさせるもの。
全身に力が入らず、脳の働きも頗る悪くなった。
見れず、話せず、聞こえず、歩けず、触れず、自殺すらできないこの二年間はまさに生き地獄だった。
しかし、一縷の望みもあった。それが、お母さんとの「唇コミュニケーション」だ。
これを使えば、精神状態がおかしいならば、お母さんにその旨を伝えて、薬を貰ってきてもらえばいい。
好きなものだって食べさせて貰える??味はわからなかったけど。
用意周到に計画を練ったであろうブスミヤでさえ、人間に残された復讐の引き金の最小単位である「意思」は消しきれなかったんだわ。
「オ・カ・ア・サ・ン」
「はい なんですか」
私は準備が整い次第、ブスミヤに対して、あの女が行ったこと以上の復讐を遂げてみせる。お母さんと共にね。
「ワ・タ・シ フ・ク・シ・ュ・ウ シ・タ・イ」
「さいきん からだ が なおって きた ばっかり でしょ」
お母さんは、私が理解しやすいように言葉を区切ってくれる。
「イ・イ・ノ ア・イ・ツ ノ ヨ・ウ・ス ヲ シ・ラ・ベ・ル コ・ト・ガ フ・ク・シ・ュ・ウ・ノ ダ・イ・イ・ッ・ポ」
私も同じように返す。唯一の楽しみはこの行為だ。
お母さんの愛情がこんなに近くで、舌で感じられるのだもの。
「もうすこし おからだが よくなってから に なさい」
ブスミヤには苦しみ抜いて死んで貰おう。苦痛を伴う死によってのみ私の心は浄化されるの。
ブスミヤはやはりブスミヤだ。要は詰めが甘いんだよ。
「ネ・エ オ・カ・ア・サ・ン ブ・ス・ミ・ヤ ガ ド・コ・ニ イ・ルカ シ・ラ・ベ・テ」
「三十六番、お前は一生、復讐対象。お前の母親がまだ生きていると思ったのか?」
急にお母さんが早口で変な事言った。
<了>
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