12人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなの角田さんが許すはずないじゃない。あんた今日もやられるよ」
膨れたバナナみたいなその右手に、左の拳を数回当てて私を脅した。
いつもの緊張感が蘇ってきた。
掌には汗。
胃には重い空気。背中に白くて冷たい筋のようなものが走る。
「太田さん。そんなこと言わないで待ってあげましょうよ。ブスミ……、西宮さんがかわいそうじゃない?」
「あーん、亜美ちゃん。やめてよ、私が悪人みたいじゃなーい」
太田はその巨体をうねらせて、角田の左隣に収まった。
角田亜美、最高権力者の登場だ。
「そうだ、西宮さん。新しい友達を紹介するね。関さんよ」
そう言う角田は、短髪で背の高い女を指差した。
こいつが今回の新入りか。
確かこの女は空手部で強いと有名だったはずだ。
「ちっーす、どーもぉー」関が挨拶をしてきた。
私が会釈で答えようとした瞬間、顔面にパンチが飛んできた。
後方に仰け反り、私は頬に手を当てた。徐々に左頬から痛みが広がってきた。
「角田さん、こいつで実戦練習していいんでしょ? 蹴りも当然ありよね?」
「関さん、当たり前よ。私たち友達じゃない。みんなでシェアしましょうよ」
私はストレス解消の道具である。金ヅルでもあり、サンドバッグとしても機能しなくてはならない。
それもパンチ力、キック力に応じて呻いてしまうタイプのサンドバッグだ。
ーー関が蹴る。
「ごげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
そんな嗚咽の声が周囲に響いた。
鳩尾に激痛が走っている。倒れこむ私に関は蹴る脚を止めない。
最初のコメントを投稿しよう!