第1章

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「そんなの角田さんが許すはずないじゃない。あんた今日もやられるよ」 膨れたバナナみたいなその右手に、左の拳を数回当てて私を脅した。 いつもの緊張感が蘇ってきた。 掌には汗。 胃には重い空気。背中に白くて冷たい筋のようなものが走る。 「太田さん。そんなこと言わないで待ってあげましょうよ。ブスミ……、西宮さんがかわいそうじゃない?」 「あーん、亜美ちゃん。やめてよ、私が悪人みたいじゃなーい」 太田はその巨体をうねらせて、角田の左隣に収まった。 角田亜美、最高権力者の登場だ。 「そうだ、西宮さん。新しい友達を紹介するね。関さんよ」 そう言う角田は、短髪で背の高い女を指差した。 こいつが今回の新入りか。 確かこの女は空手部で強いと有名だったはずだ。 「ちっーす、どーもぉー」関が挨拶をしてきた。 私が会釈で答えようとした瞬間、顔面にパンチが飛んできた。 後方に仰け反り、私は頬に手を当てた。徐々に左頬から痛みが広がってきた。 「角田さん、こいつで実戦練習していいんでしょ? 蹴りも当然ありよね?」 「関さん、当たり前よ。私たち友達じゃない。みんなでシェアしましょうよ」 私はストレス解消の道具である。金ヅルでもあり、サンドバッグとしても機能しなくてはならない。 それもパンチ力、キック力に応じて呻いてしまうタイプのサンドバッグだ。 ーー関が蹴る。 「ごげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」 そんな嗚咽の声が周囲に響いた。 鳩尾に激痛が走っている。倒れこむ私に関は蹴る脚を止めない。    
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