第一章 覚醒

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「…」 フワフワと、浮かんでるような感覚。 「ッ!!」 先ほどまで眼前にいた、ピエロ野郎の引き裂けた笑みが脳裏に焼きついて離れない。 その幻覚にも似た、思い出したくもない存在を振り払おうと頭を振っても、振れば振るほど…嫌がれば嫌がるほどに、ピエロの笑みが一層強く焼き付けられていく。 奴の性格を分析するに、それはつまりそういうことなのだろう。 だとすれば、俺が不快に思えば思うほど、奴に植えつけられたこのイメージは、深く、強く、鮮明に俺の脳裏をよぎるのだろう。 それと、今、俺が居る…といえるのかは定かではないが、浮かんでいるような感覚、では無く事実先ほどまで俺が居た空間と同じく、真っ暗なトンネルのような空間をふわふわと浮きながらも何かに引き寄せられているかのように少しずつだが移動している。 真っ暗なのになぜ、そんなことがわかるのか?というと、それはわからない、が、確実に俺が居るこの空間はトンネル状になっており、俺は何かに引き寄せられていると確信している。 ああ、と俺はピエロ野郎の言っていたことを思い出した。 「最低限必要な情報は頭に…とか、言ってたな」 くそったれ、そんな親切心を出すくらいならば、この転生…というのだったか、心底投げ捨ててしまいたい奇跡の体験をする権利を帳消しにして欲しかったものだ。 しかし… 「最低限必要な情報だと…?こんなわけのわからないトンネルの情報なんぞわかったところでなんになるってんだ…それに、転生…させるのなら情報なんて必要ねぇんじゃねぇのか…?」 そもそも、転生ってやつは輪廻の輪で魂が循環どうのっていうオカルトが元ネタの宗教が絡んだ概念で、普通は赤ん坊として生を得る…といった話しだった筈。 だったら、今の俺が持つ記憶も知識も経験も無くなるのではないのか? そこまで考えて、再びピエロの顔が脳裏をよぎる。 「そうだ、あいつがそんなマトモな転生だとかいうことをするはずがねぇ…俺は何を楽観的になってんだ…?常に最悪の事態を想定して…」 想定?あの摩訶不思議アンド奇天烈アンド奇想天外な人類を超越していてサディストとマゾヒストが混ざってピエロのような存在の思考を? どう考えても、無理だ。 確かに俺は一般人ではない、が、一般人類だ。 超常的な存在の思考など、得てしまえば脳が焼ききれてショートしてしまうだろう、特にあのピエロは。
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