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もう、何年だっけか。
あの人が死んで…
もう、涙すら出やしない。
そりゃそうか、あれだけ泣いて、みっともなくすがりついて…
流したもんはもう戻ってきやしない、形があってもなくても、それが道理だ。
「がふっ…こ、こんなことを…して、ただですむと思うな、よ…!!」
「あ?うるせぇな…もうてめぇにはどうこうする権力はねぇよ…ここで死ぬんだからな」
「ひ、ひぃ!?」
ガツッ、と鈍い音を立てながら、眼前で喚く汚らしいおっさんにナイフを突き立てる。
「ぁ…い、いだ、い…」
「いてぇだ?知るかよ、その痛みは誰かの恨みだ、とっと死んどけ屑」
ビクビクと痙攣を起こし始めたおっさんを足蹴にしながら、俺は手早くナイフを回収して、僅かに浴びた返り血を拭うと携帯電話を取り出して今回のクライアントに電話をかける。
「ちっ、早くでろよカスが…」
prr、と鳴る携帯電話を耳に当てて、苛立ちつつ俺は足元で既に意識を手放したおっさんを見つめた。
「とっとと死んどけ、屑…か、はは…馬鹿だなぁ、俺…」
もう、戻れない過去を思い出しながら、自嘲を多分に含んだ笑い声を上げながら、俺はつぶやく。
『…首尾はどうだ?』
ガチャ、という機械音が耳元から聞こえると同時に、俺の耳にしわがれたジジィの声が届く。
「ああ?そりゃ勿論、ミッションコンプリートに決まってんだろ?んなことより、だ…」
わかりきったことを聞いてくるジジィに苛立ちながら、依頼を順当にこなしたことを報告しつつジジィに対価をせびる。
『わかっている…お前は、ずいぶんと尽くしてくれた、それに…三月との約束もある、あの施設は…ワシにまかせろ、何があろうと100年は守り抜いてみせる』
「ああ、助かる、んじゃあな…」
『すまないな…せめて、苦しまずに逝け、さらばだ、鬼斗』
「くそジジィ、案外てめぇのこと嫌いじゃなかったぜ」
そういって、俺は通話を終了してピピピと、携帯電話を操作してここへ侵入したときのまま開け放していた窓へ向けて、携帯電話を放り投げた。
これで、あと数分であの携帯は木っ端微塵にズドーン、だ。
「ははは…」
うなだれるようにしてずるずるとその場に俺が座りこむのと同時にバーン!と音を立てて銃を持った男が数人この部屋へ押し入ってきた
「死んどけ屑か…今から死ぬ俺も、屑ってことなんだろうなぁ…」
頭に突きつけられる銃を見つめながら俺は最期にそうつぶやいた…
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