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呆気ないものだ、人間の人生なんて。
たった数重グラムの鉛で終わっちまう程度にはな。
何度も命を奪ってきた俺は、それを嫌というほど知ってるし、あの人が死んだその日に理解した。
あの人が、綺麗なまま守ってきたものがどれだけ尊くて、美しいものなのかも、同時に知った。
人生、命。
それはきっと、とても重く、かけがえの無いものなのだろう。
けれど、それは、幾千幾万とこの地球に存在する命、人生ってやつは…全てが等価値ではない。
当然か、なにせ、幾千幾万の命、人生が存在すれば、同時にそれだけの数の思想、理念、意思が存在しているということなのだから。
だからこそ、俺は。
あの人が残したものを。
あの人が汚したくなかった日常を。
あの人が創り上げた最低価の命の楽園を。
俺は、俺自身を血に染めてでも守りたかった、守れた…はずだ。
俺の意思で、俺は、自己中心的に守った。
子供の我侭を、突き通した。
世間でいうところの最高価の命を奪い、消し、潰して。
全てを失った最低価の命を、ただひたすらに守った。
あの人のように言葉をうまく使えない俺は、暴力を行使して。
…
おそらくは、今、俺は死後の世界、とでも言えばいいのだろうか。
あの時、突きつけられた拳銃で撃たれたのであろう側頭部に、鈍い痛みを感じながら、暗い、暗い…どこまでも続くのかと思うほどに暗い。
そんな黒い世界にポツリと浮かんでいる。
地獄や天国なんて、生きてる人間が勝手に作り上げた妄想だと思っていたけど…どうやら、人間ってやつの想像力はなかなかどうして、的確に世界を表現できているらしい。
この暗く、黒い世界が、いままで殺しを続けた俺への罰なのだとするのならば、ここはきっと地獄なのだろう。
一人ぼっちで暗く黒い世界に浮かぶ…常人からすれば正気ではいられないのだろう。
けれど…俺は、生きているときから孤独だった、あの人が死んでからずっと、前も見えないほど暗い世界に生きていた。
それでも尚、生きていることを選択してこれる程、俺を後押ししてくれた殺しを、微塵も後悔はしていない。
だから、こんな世界に放り出されても、苦痛を感じることは無い。
そのはずなのに…
「どうして…涙がとまらねぇんだよ…」
頬を伝う、今の俺に似つかわしくないほどに、透明に透き通った雫をゴシゴシと拭うが、あふれ出る雫は止まらない。
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