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本当に、久しぶりに泣いたな、と。
「俺にも…流す涙は残ってたんだな…」
枯れ果ててしまったと思っていた、決別できていたと思っていた。
けれど、それは強くあろうとした俺の独りよがりが見せた偶像だったのだろう。
誰にも聞こえない、誰も弱い本音をあざ笑うことが無い、そんな空間に放り出されただけで、このざまだ。
自分でもあきれるほどに、俺は弱い。
「でもまぁ…終わったんだな」
つい先ほどまで泣き叫んでいたせいで、酷くガラガラとした声と共にフゥ…と細く息を吐く。
「もう…俺は死んだ…もう、俺は弱い俺を責めないでいい…もう、俺は強く見せなくていい…」
安堵。
言葉を紡いでいくと、心からスッと、何かが抜けていくような、入って来るような…そんな不思議な感覚が全身に巡っていく。
張り続けていた気が、ピンと音を立てて切れるような錯覚。
本当の意味で、汚れた俺が今、死んだ。
そんな気がした。
「あとは…あの人のとこにいけりゃあ…万々歳ってやつなんだけど…な」
あの人が死んで以来、一度も口にしなかった思いが口をついて出た。
弱い自分が本格的に俺を支配し始めたのだろう、けれどもう、それを自制する必要も無い。
思うだけならば、言うだけならば、タダ、だ。
生前の俺ならば、一笑に付すであろう…一笑に付さなければいけなかったであろう考えに、俺は何か心地の良いものを感じていた。
次第に、頬が緩んでいく。
「ははっ…久しぶりに泣いたと思ったら…」
俺は今、笑おうとしているのか。
「おいおい…は、はははっ…なんで、死んだのに笑おうとしてんだ、馬鹿じゃねぇのか…」
自然に頬が緩んで、笑いがこみ上げる、俺のどこにこんな阿呆な感情が眠っていたというのだろうか。
「ははは…」
ここまできたら盛大に笑おう、そうすれば何かが変わる、なんとなくそんな予感がする、そう思い、スゥーと息を吸い込んだ。
その時、だった。
「おやぁ、なにやらとても愉快なご様子ですネ、おかしいナ、ワタシ、もう少しくらぁい子、想像してたんだけどナ」
「!!!?」
真っ暗な空間に似つかわしくない、ピエロを連想させる陽気な声が、笑いだそうとしていた俺の耳を殴りつけた。
「いやネェ、おっかしいナ、ボクの勘違いだったかナ?」
「お、おまえは…」
「ン?ワタシ?」
「なにもんだ…!?」
「ボクがなにものカ、って?」
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