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自分でもびっくりするほどの、耳の奥深くがビリビリと振動するほど大きな声で俺は怒鳴った。
しかし、その怒声を受けた当の本人であるピエロ野郎は、ケロッとしており。
「うン、許されるサ、なんたってここハ、ボクの空間なんだもン」
サラリと、全身が強張るほどあっさり、ピエロ野郎は肯定した、自分の言動が狂っていることを、子供のような理論で、他人の命や理念、思想を無視した、ピエロ野郎自身の無法な思想で。
…わかっていた、このピエロ野郎は人類を超越した何かであり、人間の定めた法や、人間の持つ理屈、そんなものを歯牙にもかけない…いや、視界にすら入っていない存在なのだ、と。
だが、呆然とするほか無かった、俺は俺の意思無く、生き返らせられる、それも今まで通りの俺という存在…鬼斗 夜月としてではなく、まったく新しい別人として、だ。
夜月としての人生も耐え難い、が、新しい人生なんて更に御免だ。
俺の歩んだ道も、記憶も、守ったものも、全てが無になるなんて、あの人とすごした日々が別人のものになるなんて、許せない、許容等、出来るはずも無い。
「あっハ!早速ワタシ好みのい~顔をしてくれてるネ、怒リ、憎しミ、不安、殺意…そのどれもガ、ボクを快感へと導いてくれるヨ」
歯を食いしばり、鬼気迫った顔をしているであろう俺を見つめながら、ピエロ野郎は身体をくねらせ、ホゥ、と息を吐いている。
「けれド…そろそろ始めないと時間が無いネ、名残惜しいけれド…早速はじめようカ」
残念そうに言うピエロ野郎に、俺はドクン、と心臓が跳ね回るのを感じた。
「待て…」
「安心してネ、最低限必要な情報は頭にぶち込んどくからネ!うフ…良い絶望と人生ヲ」
縋り付くように言葉を発する俺に、ピエロ野郎は引き裂けたような笑みを向け、言葉を締めた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
叫ぶのと同時だったか、それともそれよりも前だったか、真っ暗な空間を更に黒い何かが満たして行くの感じながら、俺は意識を手放した…
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「あっハ!いい顔、だったナァ…」
夜月が消えた真っ暗な空間で、真っ赤なスーツに身を包んだピエロは頬に手を当て、うっとりと、陶酔していた。
もっと、彼を見たかった、もっと、苛めていてあげたかった。
そんなことを考えながら。ピエロはため息を吐いた。
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