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「つまり白米はブランド価格が設定されると値段が決まってしまうということなんだ」
「ごめん……全然わからない」
「そりゃそうか。素人だから当然だ」
卵かけごはんを咀嚼しながらお話を聞いたけど、全然わからない。
例えるなら法事でよく聞く般若心経を耳にしているような気分だ。
でも、それを伝えたらきっと機嫌が悪くなるよね。
隣町にあるレストランにて。
命の恩人である男子生徒を見つけた私は、例の彼に卵かけごはんを御馳走してもらっていた。
名前は御崎美鶴君。
何の情報もないまま彼と会った人は、きっと彼のことを女子中学生って言うと思う。
華奢な身体、長いまつ毛、細い銅線のようにキラキラした髪。
私が欲しいものを全部詰め込んだルックスをした男の子は、カウンターから色々なことを喋ってくれる。
かなり辛辣な言い回しをするって聞いていたから身構えていたけど、思ったよりも良い人でよかった。
「そういえばさ、オオトリって漢字でどう書くの? あと、かざみは風見鶏? それとも着物のほう?」
「オオトリは鳳凰のホウ。かざみは平仮名表記。変な名前でごめんね」
「別に問題ない。それよりも好きな食べ物と苦手な食べ物はなんだ?」
「え、えっと……甘いものが好き。苦手なのは辛いものだけど山椒のピリピリは大丈夫だよ」
ボールペンでメモに走り書きをする御崎君。
私のプロフィールなんか知ってどうするつもりなんだろう。
でも、こうやって同級生とお話ができるのは嬉しい。
入学してから中学三年の十月下旬まで、背の高さと怖い顔のせいで誰も話しかけてくれなかったから。
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