LUNA―月―

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「はい、こちらになります」 「ありがとうございます。どなたが作ってるんですか?」 笑顔と一緒に、フワリと爽やかな香りが漂った。 「はい…私です。これはとても丈夫ですので、ジャブジャブ洗っても大丈夫ですよ?」 「そうですか、ありがとう」 品物を受けとると、その人は店の外に消えていった。 それと同時に、私の心臓がドキドキしていることに気がついて、不思議な感覚に囚われていた。 その人がキルトをプレゼントする方が、どんな女性かが気になって仕方なくて、レジカウンター裏の作業台に座っても暫くボーッとしていた。 いつも、私が作ったものが売れると、暫くその行き先を考える。 キルト好きなのかな?とか、どこに飾るのかな?とか、また来てくれるかな?とか… でも、今回は何かが違うの。 なんなんだろうって胸の内に問いかけても、答えは全く分からない。 「○○○さん?今日のお昼はお弁当?」 オーナーの娘さんの京子さんが買い物から帰ってきた。 お昼のお弁当を手にしてる。 「おかえりなさい。いえ、今日は寝坊して作れなかったし、気分転換にランチに行ってこようかと…」 「そう?それじゃキリの良い所で行ってきていいわよ?私お弁当買ってきたから」 「はい、それじゃこれだけやってから…」 まだドキドキしている胸を悟られないように、さっきお客様で中断していたキルトの糸の始末を終えて、お財布片手に急いでランチへとお店を出た。
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