LUNA―月―

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「えっと…俺は…あっ、これです!」 その人はバッグの中をゴソゴソとかき回すと、一枚のCDを取りだしテーブルの上に置いた。 「CD? なんですか?」 暗い夜の港を背景に、5人の男性がそれぞれポーズを決めている。 「えっと…これ!」 その5人の中の一人を指差した。 「えっ?…とうほうしん…この人…」 指先に写る男性と、目の前で微笑んでいる男性を、交互に見ながら確かめた。 「貴方ですか?」 「そう。俺はユチュン。ユチュンって呼んでください」 「ユ…ユチュン!? あなた…このグループのユチョンなの?」 このグループと言えば、数年前から日本だけでなく、世界的に有名なダンスヴォーカルグループ。 私の場合、残念ながら一人一人の名前まで分からないけど、その曲は何度か聴いたことがある。 「そうです。今度俺たちのアルバムのPVを撮ることになって、それでさっきの…これこれ!この部屋のセットは出来たんですけど、なんかシックリいかなくて…」 「はぁ…」 「それで今日、あのお店でイメージにピッタリのキルトがあったから、それでこうして…」 「…はぁ…」 もう『はぁ』としか言いようがなかった。 だって目の前の人が、いま人気の芸能人で、その人が私の作ったキルトを気に入ってくれて、それでまたそれを、自分達のPV撮影に使いたいだなんて… 普通に考えたら、あるわけがない。
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