297人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
あんまり長居しても出産直後の絹ちゃんの負担になるだろうからと加藤様と病室を後にしようとすると一香ちゃんがトットットとやって来て加藤様のズボンをクイっと引っ張った。
「一香、お兄ちゃんのお嫁さんになる」
その一言に絹ちゃんと一雄さんが笑う。
笑えないのは私だけ。
「お兄ちゃん優しいから好き」
加藤様は一香ちゃんの目線に合うように体をかがませると『ありがとう』と笑顔を見せた。
「約束。お兄ちゃん一香が大きくなるまで待っててね」
小指を出す一香ちゃん。
「ごめんね。一香。お兄ちゃんのお嫁さんは美湖って決まってるんだ」
今まで聞いたこともないような優しい声で一香ちゃんに話す加藤様。
「お姉ちゃんがお嫁さん?一香じゃダメ?」
今にも泣き出しそうな一香ちゃんに『ごめんね』と優しく諭す加藤様。
その様子をただ黙って見てる事しかできなかった。
「デートの邪魔して本当ごめんね。この埋め合わせはするから」
絹ちゃんの言葉に我に返り『気にしないで』と答えるのが精いっぱいだった。
本当は赤ちゃん見て帰りたかったけれど、まだ見られないと知ってそのまま帰ることにした。
「帰るか」
「え?」
本当にこのまま帰るの?そう思って慌てて加藤様を見ると何故か悪魔顔をしている。
「怒ってないのか?」
「別に何にも怒ってないです?」
「嫉妬したとかじゃなくて?」
「何に嫉妬するんですか?」
「俺と美和」
「美和?」
「悠馬の母親」
美和って言うんだ。そんでもって呼び捨てしちゃう仲になってるんだ。
「もう疲れたんで帰りたいです」
「疲れることしたか?」
「加藤さんはどうか知らないですけど、私は子供と一緒に遊んだんで疲れたんです!」
「そうか。それじゃあ休憩が必要だな」
そういうと、私を車に乗せて目的地も言わず走り出した。
暫く走った車はとあるマンションの駐車場に入る。
「行くぞ」
「ってどこですか?」
「家」
「家?加藤さんの?」
「他にどこの家がある?疲れたんだろう。来いよ。マッサージしてやる」
その声が恐ろしくて逆らえない。
可笑しいでしょ!私は何にも悪い事してないのになんか私が悪いような雰囲気を加藤様が醸し出すなんて!
そのまま後を付いて加藤様の部屋へと入る。
最初のコメントを投稿しよう!