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「差押え」
そんなお札のような紙切れがそこら中に貼り付けられ、怒り、戸惑い、悲しみなど様々な感情がテナントに入り乱れた。
アルバイトとしていつものように出勤すれば倒産していたのだ。
計画倒産だったのか、多くの社員でさえ知らなかったらしく、何処かに電話を掛けまくっている。
「また・・仕事探さなきゃか。」
ショックだが、いつまでもここで呆然としても始まらない。
渚は、カフェで珈琲を頼み仕事案内の雑誌を開いた。
「ねぇ、ここいい?」
そこへ声を掛けてきたのは、一緒の仕事先だった美鈴だった。
彼女は正社員だったのもあり、さらにショックが大きかったのだろう。少し顔が青ざめていた。
「驚いちゃったね、ほんと。」
「そうですね。突然でしたし。」
「あのね・・私も本当に知らなかったの。」
何処か怯えるような目で彼女は言った。
あぁ、アルバイト達にもしかしたら責められたのかも知れない。
渚はそっとテーブルに置かれていた美鈴の手を握り、見つめた。
「大丈夫ですよ。」
気の利いた台詞は残念ながら言えなかった。
とにかく大丈夫だと分かって欲しくて、この冷たい手が温まる事を願い、力を軽くこめた。
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