緋色の彼

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 街を輝かせていた陽の光が地平線の彼方、建物が連なる景色の淵にへと落ちていく様を僕は眺めていた。  全て夢だったら良いのにと思う僕の心を見透かしてか体を撫でていく生暖かい風がこれが現実であると僕に告げていた。  僕は再び両足を乗せていたパペラットの上から眼下に広がる光景を眺めた、八月半ばという事もあり校庭にはいつもの様に部活をしている運動部の姿はなく哀れにも盆休みにわざわざ出勤している教職員も恐らくはここに立っている僕の存在に気がつく事はないだろう。  ここに居るのは僕だけだ、自分にそう言い聞かせて心を平静に保つ、きっと誰かが僕を見る事なんて事はない、ひっそりと死ぬ事が出来るだろう。  ひっそりと死にたいのであれば僅かな所持金をもって何処か遠くで死ねば良いのだろうが僕にそんな勇気はなかった。ひっそりと死にたいと言いつつも心の何処かで僕はきっと自分を見て、泣いて、騒いで、そんな事をしてくれる人を最後まで求め続けていたのかもしれない。  自分の弱さがつくづく嫌になる、眉間に皺を寄せ喉元まで上がってきた胃液を飲み込む、喉を焼いていた胃液の感覚と僅かに口に残った酸っぱい味が自己嫌悪している僕の心と合わさり強い吐き気が押し寄せる。  ここで死ねば自由になれる、でも果たしてそれで良いのだろうか。  母は、父は、僕が死んでしまったらきっと悲しむ事になるだろう。  でも僕自身はこれ以上この世界で生きていく事に自信が持てなかった。  きっかけは他人から見ればとても些細でくだらない事なのだろうが僕にとってその事はとても大きかったしこれまで生きてきた中で積み上げられたこの世界への怒りと嫉妬心を最大値にまで上昇させる出来事であった。  だから僕は今ここにいる。誰にも見つからずこの学校に来て、屋上へのドアをこじ開け、フェンスをよじ登りパペラットの上に立っている。  後は踏み出すだけ、だがその肝心の踏み出す勇気が僕にはなかった。
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