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 タツオは心のなかでスイッチを入れた。静かに逆島(さかしま)家秘伝「止水(しすい)」を発動する。この技特有の澄(す)んだ意識が降ってくる。自分の精神と肉体が透明になったかのようだ。  タツオは空中に静止する黄金の塵(ちり)に目をやった。青畳の上には夕日を浴びた無数の埃(ほこり)が浮かんでいる。「止水」を発動したとたんに、すべての黄金の塵がゆるやかなブラウン運動を再開した。壁の時計で秒針がゆっくりと進み始めたのが確認できる。  タツオは右手の指先だけに意識を集中して、動かしてみた。ぴくりと中指の先が動いた。自分は「呑龍」のなかでも、なんとか身体を動かせる。本来ならため息をつきそうなほどの安心感だが、タツオは冷静に自分を抑えた。カザンに「止水」の発動を悟(さと)られてはならない。
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