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 音はずっと遅れてモールス信号のように途切れながらやってきた。そこからカザンの身のこなしは光速のようだった。飛びだすように距離を詰め、右足を踏みこんでくる。足の動きが瞬間移動のようだ。  右手は腰のあたりで弓のように引いている。カザンの得意な日乃元拳法の中段突きだ。  タツオは左手の手首を回転させるのがやっとだった。身体をひねったり、上半身を引いて避けるほどの動きは「呑龍」の術下では困難だ。  タツオの手首の反転で、カザンの中段突きの軌道が逸れた。狙いはみぞおちにある急所の太陽神経叢(たいようしんけいそう)だが、カザンの硬い拳(こぶし)は左の肋骨(ろっこつ)に被弾する。骨がたわむほどの打撃で、息が止まりそうになった。なんとか表情を変えずに、タツオは打撃を受けとめた。  だが、衝撃はタツオよりもカザンのほうが数倍も激しかったおうだ。幼馴染(おさななじ)みの表情が信じられないものでも見たように、驚愕(きょうがく)に歪(ゆが)んだ。
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