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 逆島家の先祖のうち何人かは、実際に「呑龍」と闘って勝利を収めているのだ。不可能なことではないはずだった。タツオは身体のあちこちから零れ落ちる水滴を想像する。水からあがった子どものように全身から水滴を垂らし、そのすべてを静止映像に換えていく。左の足首がびくりと動いた。左の眉(まゆ)がつりあがり、左肩もぴくりと脳の指令に反応する。  巨大な龍に呑まれていても、身体を動かすことができるようになっている。タツオは歓喜の声をあげそうだった。カザンの声が先ほどよりも速く聞こえた。それでも地を這(は)うような低音は変わらない。 「…だ…が…ま…だ…ま…だ…自…由…に…は…動…け…な…い…よ…う…だ…な…ゆ…く…ぞ」  カザンが左右にステップを踏み始めた。身体を揺らしながら、近づいてくる。左のフェイントをかけてから、右を撃ちこんでくる。タツオは肘(ひじ)の先だけで正拳をかわそうとしたが、そちらもまたフェイントだった。左の拳がごつんと頬骨(ほおぼね)に当たる衝撃が残る。カザンはまた光速でタツオの圏外に逃げ去っている。
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