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東園寺家の次期当主はにやりと素早く笑った。
「…そ…の…程…度…の…も…の…か…『止…水』…も…た…い…し…た…こ…と…は…な…い…な…死…角…か…ら…き…た…ら…ど…う…す…る?…」
にやにやと笑いを浮かべながら、タツオの視界から背後にすり足で移動していく。タツオはなんとか首を回そうとしたが、カザンの光速の移動には追いつかなかった。タツオの「止水」ではまだカザンの「呑龍」を完璧に補正するほどの加速は得られないのだ。どこかからやってくる衝撃に備えた。なんとか後頭部だけは右手で守る。
「…間…抜…け!…」
蹴りつけられたのはひざの裏側だった。とても立ってはいられない。タツオは頭を抱えたまま崩れ落ちた。青い畳の匂いがした。口のなかには鉄錆(てつさび)の血の味がする。先ほどの左正拳で切ったらしい。
タツオがのろのろと立ちあがるあいだ、カザンは腕組みをして待っていた。瞬きと呼吸とつま先は催眠状態を維持するため、変拍子を続けている。
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