10/27
前へ
/27ページ
次へ
その貌はまるで生きた浄瑠璃人形のようだ。黒子が人形を操るが如く、その人形の周囲には黒々とした影がとぐろを巻き、ゆらゆらと宙に漂う。 藜はその背筋が凍る程の殺意と邪気に身を固めるしかなかった。 浄瑠璃人形の口が徐に、かちかちと震えるや否や、底の見えない黒々とした咥内を露わにし、闇が捻れ、瞬く間に鋭い切っ先が生成されていく。 その切っ先が向けられ、藜は己の最期を悟った。 ひょうふっ、と禍々しい切っ先が宙を射る。 これが走馬灯というものだろうか。 今も尚、藜の帰りを待つ、あの大きな子供のような従属が脳裏から離れない。 藜が還らぬ事を知れば、どんなにか心を痛めることだろう。 文字通り“誰”よりも優しい刀なのだから。 藜は瞼を閉じ、たおやかに微笑みを浮かべるのであった。 『その太刀、八咫にもなる大烏の羽より作られたという伝承がある。』
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加