【四話 清さんのプロポーズ】

2/2

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
酒は言うまでも無く恋の妙薬、惚れ薬。その上、いざとなったら「酒の上での話」と誤魔化せるから便利なものだ。 清四朗さんが落ち込んでいる。町議会選挙に落ちたから。 悔しそう、寂しそう。 だから、飲みながら、飲ませながら、なぐさめた。 「あそこはいる場所ではありませんでした。 それとも清さんは、あの人たちと同じになりたかったのですか?」 「成りたくなんかない」 絶対に嫌だとでも言うように、掃き捨てるよう言った。 「それを見透かされたんですよ」 と笑う。清さんも、そうだ!そうだ!と頷いた。 「清さんは、ここで終わる方じゃない。 それとも清さんは、こんなところで終わりたかったですか? 仕事のほうで頑張ったらいいじゃないですか」 清さんは鼻を赤くした。 「ちくしょう、やっぱり佐緒里っていいなあ。 どかんと偉くなりてぇ。 それで、おっきく稼いだら佐緒里にプロポーズするんだ」 そう言うと横を向いて鼻をすすた。 「清さん、プロポーズは偉くなってからするもんじゃありませんよ。その前にするもんですよ。そんなに女は、待ってられませんから。」私は、にっこりと笑った。 「酒は古酒 女は年増(としま)か」 「清さん、それすっごく失礼」と二人で笑った。 落ち込んでいる時になぐさめ、励まされたら人は恋に落ちやすい。 そして、男は馬鹿だから酒ですぐ本音を晒してしまう。 きっと明日になれば覚えていないだろうな。 でも清さん、私は覚えているからね。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加