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酒は言うまでも無く恋の妙薬、惚れ薬。その上、いざとなったら「酒の上での話」と誤魔化せるから便利なものだ。
清四朗さんが落ち込んでいる。町議会選挙に落ちたから。
悔しそう、寂しそう。
だから、飲みながら、飲ませながら、なぐさめた。
「あそこはいる場所ではありませんでした。
それとも清さんは、あの人たちと同じになりたかったのですか?」
「成りたくなんかない」
絶対に嫌だとでも言うように、掃き捨てるよう言った。
「それを見透かされたんですよ」
と笑う。清さんも、そうだ!そうだ!と頷いた。
「清さんは、ここで終わる方じゃない。
それとも清さんは、こんなところで終わりたかったですか?
仕事のほうで頑張ったらいいじゃないですか」
清さんは鼻を赤くした。
「ちくしょう、やっぱり佐緒里っていいなあ。
どかんと偉くなりてぇ。
それで、おっきく稼いだら佐緒里にプロポーズするんだ」
そう言うと横を向いて鼻をすすた。
「清さん、プロポーズは偉くなってからするもんじゃありませんよ。その前にするもんですよ。そんなに女は、待ってられませんから。」私は、にっこりと笑った。
「酒は古酒 女は年増(としま)か」
「清さん、それすっごく失礼」と二人で笑った。
落ち込んでいる時になぐさめ、励まされたら人は恋に落ちやすい。
そして、男は馬鹿だから酒ですぐ本音を晒してしまう。
きっと明日になれば覚えていないだろうな。
でも清さん、私は覚えているからね。
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