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水琴窟の女主人は、メニューをそうっと置き決まるのを待っている。
そう言えば、彼女によく似た女性がいたな・・・。
好きあう彼女と、ようやく逢えた帰り際。
本当は離れたくなんてないのだけれど、お互い事情があるから引き留めるなんて良くはない。
それを解っているから、さっさと身支度をする癖に、さようならの顔は泣きそうで、でも作り笑いを無理に浮かべ小さくばいばいをする彼女。
切なくて、愛しくて、もう一度抱きしめたくなる。
一時の喜ぶ顔を見たくてもう一度、ささやかな会話をしに戻ることたまにした。
「気を付けて帰るんだぞ」「また電話する」「次までに、ちゃんとしておけよ」大抵、そんなことだった。
けれどそれをすれば、またもう一度、彼女の切ない顔を見る事になる。
気持ちを押さえ振りきる様に車を発射する。
見送っている彼女は、多分、車が見えなくなるまで見ているだろう。
逢った後、気持ちが後を引く女だった。
仕草が可愛い人だったから・・・。
「晃さん・・・」呼ばれたような気がして顔をあげると、女主人と目が合った。
そろそろ、オーダーを決めなければ。
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