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通い慣れるほどに、肌になじむ。
「これでもう,佐緒里のことは全部分かった。」
そう思い、ふと路地を曲がれば、また思いもよらない魅力を発見する。
そうして、奥のまたその奥へと誘い込まれ今では抜け出せない。
迷路のような女性。
「こんな姿は、自分ではない」と幾度か脱出を試みる。
けれど、かつての生活が砂のように味気ない。
すぐ寂しくて、再び迷路へと舞い戻る。
もう、佐緒里に陥落されてしまおうと決めたら一気に楽になった。
佐緒里を自分の最後の女と決めたから精魂こめて磨いてやった。
泥が取れ、すべすべと少し綺麗になってきた。
冷たい印象が抜け、優しさを帯びる。
けれど、ちょっと磨きすぎたのか。
内側から輝き始めると、佐緒里は突然にさま変わった。
風景のようなもので、女もただ綺麗なだけでは、男は流れ留まらない。
女らしい色香を放ち、男慣れした佐緒里はもう物おじしなくなっていた。
そして男が止まるようになった。
やがて、余裕があったつもりの男心に変化が生じた。
「間違いをおこすなよ」
「お酒は厳禁」
「舌を噛み切ってでも操を守れよ!」
冗談だと思って笑う彼女に、、
「本音だぞ」そう釘を刺す。
心配し過ぎかもしれない。
自分でも持ち慣れない嫉妬心に疲弊した。
しかし、男の気持ちは俺のほうが良く分かる。
手を出しそうな男。
自分と同じ匂いのする男。
むらっ気のある俺に泣かされた時、彼女が靡(なびき)きそうなタイプを‘こいつは駄目だ’と、幾人か切らせた。
佐緒里には、悪いが仕方ないが俺の安心のためだ。
女に理性を失うなど60年近く付き合ってきた自分に、まだ知らぬ一面があったのかと驚いた。佐緒里のお陰で発見し、今はそれを面白く感じている。
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