【十話 路地に迷い込む】

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通い慣れるほどに、肌になじむ。 「これでもう,佐緒里のことは全部分かった。」 そう思い、ふと路地を曲がれば、また思いもよらない魅力を発見する。 そうして、奥のまたその奥へと誘い込まれ今では抜け出せない。 迷路のような女性。 「こんな姿は、自分ではない」と幾度か脱出を試みる。 けれど、かつての生活が砂のように味気ない。 すぐ寂しくて、再び迷路へと舞い戻る。 もう、佐緒里に陥落されてしまおうと決めたら一気に楽になった。 佐緒里を自分の最後の女と決めたから精魂こめて磨いてやった。 泥が取れ、すべすべと少し綺麗になってきた。 冷たい印象が抜け、優しさを帯びる。 けれど、ちょっと磨きすぎたのか。 内側から輝き始めると、佐緒里は突然にさま変わった。 風景のようなもので、女もただ綺麗なだけでは、男は流れ留まらない。 女らしい色香を放ち、男慣れした佐緒里はもう物おじしなくなっていた。 そして男が止まるようになった。 やがて、余裕があったつもりの男心に変化が生じた。 「間違いをおこすなよ」 「お酒は厳禁」 「舌を噛み切ってでも操を守れよ!」 冗談だと思って笑う彼女に、、 「本音だぞ」そう釘を刺す。 心配し過ぎかもしれない。 自分でも持ち慣れない嫉妬心に疲弊した。 しかし、男の気持ちは俺のほうが良く分かる。 手を出しそうな男。 自分と同じ匂いのする男。 むらっ気のある俺に泣かされた時、彼女が靡(なびき)きそうなタイプを‘こいつは駄目だ’と、幾人か切らせた。 佐緒里には、悪いが仕方ないが俺の安心のためだ。 女に理性を失うなど60年近く付き合ってきた自分に、まだ知らぬ一面があったのかと驚いた。佐緒里のお陰で発見し、今はそれを面白く感じている。 。
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