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ある時、正造さんがふらりと水琴窟にやって来た。
駅前に飲食店を二件も経営する立派な方だった。
一番高いコーヒーを注文して綺麗に飲んで帰って行く。
人に気を使い、店が忙しくなったらさっと席を立つ。
従業員に威張り散らすなんて絶対しない。
正造さんは、佐緒里の話をよく聞いてくれる。
顔は御世辞にも良いとは言えないけれど味がある。
ただ、少し背は低いけれど・・・。
佐緒里は、何となく親しみをこめて「正ちゃん」と呼んでいた。
正ちゃんは、帰り際そのグループに「今日は僕が払います」そう言って身銭を切った。
晴子は、きゃあきゃあと一時、正ちゃんを褒めたたえる。
でも帰るとすぐに、「変な顔」と言った。
佐緒里が堪らず。
「そんなこと無いですよ。正造さん女性にモテていますよ。」と言った。
「金に集まってくるだけじゃない?」
「話が、面白いからではないですか?」
「えーつまらないよ。全然、話が合わない」
「・・・」正ちゃんは、女受けする上っ面の知識は無いよ。替わりに、自分で培った経験が一杯詰まってる。
「私は、正造さんなんて絶対無理-。」
久しぶりに、ムカついた。
自分はちょっと容姿が良いだけで、お金を掴む人のうわばみを吸いとって生きてるくせに。
その彼女も、もうすぐ40代。
美魔女ブームに乗っかって、まだまだ健在だけど、これからどうなるのやら。
けれど、もう二度と正ちゃんみたいないいい男は私が譲ってあげないから。
正ちゃんの男粋は、私が受け取った。
そう思いながら、佐緒里は、綺麗な1万円札をレジに仕舞う。
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