【一話 ずいきの涙】

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女主人が脇に立っていた。ついと顔を寄せ、 「ああお客さん。これはですね。江戸時代に使われた秘薬です。植物のずいきの液を乾燥させた粉で、女性のあそこに塗るんです。しばらくすると女性は痒くて痒くて仕方が無くなる。だから、『掻いて』と言うわけです。」 なるほど、ただ、「して」と言うより何とも奥ゆかしいではないか。そんな風に言われたら男は、女を可愛く思い何度でも悦ばせてやりたくなったことだろう。 「実は、お客さん・・・」 「ん?」 「私も、お客さんが来る前に、うっかりずいきの涙を塗ってしまって。今、かゆくてかゆくてたまりません。」 「・・・」 「ありがとうございました。」 財布の中にある、ありったけのお金を女主人に払ってしまった。代わりに手の中にあるのは妙になまめかしい女性の絵姿が描かれた「ずいきの涙」。まあ、良いではないか。酒の席であいつに話してやるとするか。
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