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「佐緒里さん。水琴窟というのはね、いろんな所から水が流れてきて集まり、したたり落ち、最後にキーンと何ともいえない澄んだ音が出るんだ。」
「はい。」佐緒里は相槌を打った。
「お話も一緒でね、過程はいろいろあっていい。
そりゃあ人の世だもの、綺麗でないこともあるだろう。
けれど、一粒の水滴となり水面に落ちる最後の最後は、キーンと美しく奏でるから人の心に沁みるんじゃないかな?」
君の水琴窟ってそういう意味があるんだろう?山奥さんはそう言っているようだった。
山奥さんは内同生命で課長をされているごく普通の方だった。
でも、評判の有名な人より、こうした市井の人々の方がはるかに面白いことを話すから不思議だ。
話しに華やかさは無いし、自分を変に飾り立てたりしないから無骨な内容だけれど、人揉まれ、もがいてその中で掴んだものだけを話す。
けれど、佐緒里は何と言えず山奥さんの話に聞き入ってしまうのだ。
奥深い。
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