【二話 なまこの触手】

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「これは何ですか?」 黒いイボのついた細長い塊を見てそう聞いてみた。 「清水先生、これはナマコを乾燥させたものです。」 「はあ」 水うちわではたはたとこちらに風を送りながら、涼しげな顔をした女主人が話を続けた。 つるりとしたその透明な美しさは水饅頭を思い起こさせ、思わずうっとりと手に取りたくなる。勿論水うちわの話だ。余談だが水うちわはジンチョウゲ科の植物である雁皮(がんぴ)から作られた薄くて丈夫な和紙にラックカイガラムシのニス(これはヴァイオリンにも使われている)を塗り、水に浸ししぶきを飛ばし仰ぐと冷ややかな涼を得ることができる。川の多いこの地で風流な遊びの場などに使われてきた工芸品である。 「古くから伝わる精力剤の一種でね、これは私の考えなのですが・・・。」 教師をしている僕に対してちょっと遠慮してか、その謙虚な雰囲気がまたいいなぁ。 「ナマコには雄と雌がおりまして外見からでは区別がつきませんの。それで受精の時になまこは海中で少し先端を曲げまるで鎌首を持ち上げるようにし放精・放卵します。けれど広い海の中。近くに異性がつがっておりませんと折角の放出が無駄になります。」 僕は女主人の声に聞き入った。 「けれどナマコには触手がありますのでそれで触って互いの存在を感じあったりしているのではと思うのです。」 「はあ。なるほどね」 「それでね、実は人間の男にも触手がありますの。食指が湧く女性を前にすると、するする触手が勝手に伸び触るわけです。女と男がいいぐあいに話していると、男性の方から伸びた触手が女性を抱く訳です。すっぽり包んでしまうと、女の人が頬を赤らめたり大人しくするわけです。」 「・・・ほう。」 「高校生ぐらいから、日直、学級日誌、学園祭の打ち合わせ、そんな用事にかこつけ、実際に抱くわけでないけれど、幾度も幾度も女の人を抱くわけです。未発達であっても女は女。そこはあうんの呼吸でわかるわけです。この時、女性は抱かれていると感じているわけですが素知らぬふりを続けるわけです。」 「・・・」 「男性には男性の触手が見えて、大学生ぐらいになるともうしませんが小中高ぐらいだとそれが見えるとからかうわけです。からかわれるとばつが悪いから、「こら!」っと顔を赤らめ怒るわけです。だってほら、淫らな下心を見透かされているわけですから。」 先日の一件を思い出し青ざめる。
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