【三話 河童に抜かれた尻子玉】

2/3

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
【三話 河童に抜かれた尻子玉】 「おい佐緒里、お前客に変なもん売っているらしいなあ?」 「まっ、栄二さんったら失礼ね。一物二価と言いまして同じ商品でも相手によって必要の度合いは変ってくるんですよ。欲しいと言う人に売ってあげているだけだから良いじゃない。」 佐緒里はそう言うと、あなたも商売をされている人なのだからそれ位わかるでしょうとでも言いたげに軽く睨む。それにすうっと隣にやって来てちょんとついばむように唇を塞がれてはそれ以上もう何も言えないではない。その時棚の片隅で何かが動いたような気がした。 「佐緒里。あの黒い梅干しみたいなものは何だ?」 「ああそれはね、河童に抜かれた尻子玉よ」 「何だそれは?」 仕方ないわねえとでも言いたげにほんの少し眉が少し下がった。佐緒里のことは何でも分かる。悦びや悲しみさえもこちらに伝わってくるのだ。きっと表情が豊かなのだろう。 「人のお尻の近くにある玉でこれを抜かれると男は不抜けになるの。油断した旅人なんかがよく河童に抜かれていたわ」 それにしてもこの女は古い言葉や珍しい話をよく知っている。それも見てきたかのように話す。いくつかある干からびた玉を見ていると、ある1つに目が止まった。妙に新しい? 「あのね、このあいだ話したお友達の和裁師さん。やすこちゃんって言うんだけれど今度京都で着物の展示会があるそうなの。私達しばらく会っていないものだから、『久しぶりに会いたいね!』なんて盛り上がっちゃって。でもやすこちゃん、御主人が厳しらしいのよ・・・。『家庭を優先しろ』ってなかなか出してくれないらしいの・・・。やすこちゃん可愛いからきっと浮気の心配でもしているのかしらね。でもね、仕事なら出してもらえるの。それでもし良ければ、あなたも一緒に行って下さらない?別に買ってくれなくてもいいの。ただ行くだけいの。貴船の川床であなたと一緒に過ごしてみたいし・・・。」 「いいよ、行こう。そこで好きなものを買ってあげる。佐緒里が欲しいなら何でも買ってあげたいんだ。」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加