第1章

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***** 「何しにきたの」 ドアを開けて俺と薫の姿を認めると、蒼ざめた顔に泣きはらした真っ赤な目をした紫織は精一杯抑えた声で尋ねる。 「電話しても君が出ないから、直接、誤解を解きに来たんだ」 きっと、俺も目の下に隈が出来て酷い顔になっているはずだ。 彼女から電話もメールも着信拒否にされ、昨夜は眠れなかったから。 「何が誤解だって言うのよ」 俺たち二人と向き合うと、紫織は頭一つ分小さく骨の細い体つきをしている。 まるで大人と子供だ、とどこか冷静な頭で思う。 「わざわざそんな女連れてきて」 白ワンピースに桜色のルージュで着飾った薫を見上げるようにして紫織は睨み付ける。 その目には、ぞっとするような憎しみが込められていた。 「だから……」 言いかけた俺を遮る形で、紫織は薫に食い下がる。 「この人、私には、弟と暮らしてるって嘘ついてたのよ」 嘲るように笑いながらも、彼女の赤い目からまた涙が零れ落ちた。 「嘘じゃないわよ」 薫は苦く笑うと、桜色のルージュを引いた唇を拭い、ウイッグを取った。 そうすると、首から上は、俺そっくりな男が姿を現す。 「確かに心は女だけど、双子の兄貴を狙うことはないから、どうか安心してちょうだい」(了)
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