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「さっきから、どうしてそんなにシュウの名前が出るの?」
「いや…」
シュウといた理由を、由宇は“たまたま”だと言った。
けれど、俺は知っている。シュウにとってそれは、偶然じゃない。意図したことだ。
あいつはもう、何年も前から由宇を想っている。俺が由宇とこんな関係になるずっと前から、シュウは由宇に一筋だった。
「シュウと由宇。語呂がいいな」
「は?」
突如俺を襲った、膨大な罪悪感。
いつか由宇を手放すべき時が来て、それは多分俺が結婚する時で。でも例えば、俺が結婚する前に由宇に好きな男ができたとしたら。
俺は素直に由宇を手放すことができるだろうか。
「もうすぐ、藤次郎の誕生日だね」
「おー…そういえば」
「えっと、三十五歳?」
「言うな、悲しくなるから」
「いいじゃない。ナイスミドルなおじさま」
「おじさまじゃねえよ、まだ…多分」
「眞由美さんからのプレゼント、楽しみだね。それこそ車なんてくれちゃったらどうするー?」
誕生日に車、ねえ。可能性がないわけじゃないから、逆に怖い。
結婚したら、俺も今以上に金銭感覚が狂ってしまう気がして。
金の亡者になって、俺らしさを失って、周りの人間を傷つけるような男になってしまったりしたら。
そんな俺を、由宇には知られたくない。
「お前は何くれんの?」
「え!?あたしからのプレゼントとかいるの?贅沢ー」
「バカ言え。普段からお前にいくらつぎ込んでると思ってんだ。誕生日ぐらい何かしろよ」
「眞由美さんのプレゼントと比べるでしょ、絶対」
「んなことしねえよ、バカたれ」
どんなヒドイ男だよ、俺は。
「じゃ…何か用意しといてあげる」
「おー」
「七月…二十三日でいい?」
「二十二日」
「…駄目だよ。当日は眞由美さんに祝ってもらわなきゃ」
「俺、ショートケーキよりチーズケーキ派だから。頼むな」
当日は、なぜか眞由美さんとより由宇と過ごしたくて。
この年にもなって誕生日を特別だとか思ってるわけじゃないけど。三十五になる瞬間、由宇に隣にいてほしいと思った。
多分これが、最初で最後だろうから。
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