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「来週ですね、誕生日」
「あ、ああ。そうでしたね」
「三十五歳、ですね」
「はは。こんなオジさんと結婚なんて、嫌ですよね」
「そんなっ…こと言わないで下さい…わたしが好きになったんですよ?」
「…ありがとうございます」
素直すぎる。眩しすぎる。
俺には、勿体なさすぎる。
しかも、俺を好きでいてくれる。
なのに、俺は好きになれない、どうしても。
「二十二日は、どこでお食事します?今から予約しておきます」
「あー…当日は…」
「先約…ですか?」
「あ、いや…独身最後の誕生日だから、一人で過ごそうかと」
「あっ…そう、そうですね!来年からは嫌でも一緒ですもんね」
嫌でも、と、その瞬間に浮かべられた彼女の自虐的な微笑みに、胸がチクリと痛んだ。
ああ、俺にもまだ残っていたんだ。こんな人間らしさ。
まだ、完璧な金の亡者じゃない。
「ゆっくりなさってくださいね。来年からは、わたしがしっかりお祝いしますから」
「…ありがとうございます」
そうか、これが最後なんだ。
自由でいられる、最後の誕生日。
七月二十二日まで、あと一週間。
もうすぐ三十五歳になる。
零時を回る瞬間、隣には、由宇がいる。
独身最後の火遊びは、由宇としようと決めた。
あいつが、俺の最後の女だ。
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