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雨中の山を散策するのは、いくら慣れた場所でも危険だった。
年老いた今は尚更である。
これもまた、晴れの日にしかできない仕事だ。
穏やかな風が静の頬を撫でる。
今日はなにか良いことが起こりそうだ。
そんな予感さえ抱いてしまう。
彼女の洗濯場と化している川岸まであと少し。
広がる視界。
目に映るものに、静は絶句した。
思わず籠を落とす。
見慣れた景色に見慣れぬ光景。
下半身を川に浸し、うつ伏せに倒れる人。
砂利と水を汚すおびただしい血。
ボロボロで血塗れの衣服。
痛々しい擦り傷や切り傷。
堅く握られた抜き身の刀。
前言撤回。
なんて日だろう。
落武者だろうか。
しかし、この辺で戦など起こっていない。
追い剥ぎにあったのか。
しかし、服も刀も身に付けている。
なぜこんな辺境に。
大きな町も村もない。
そもそも生きているのか、死んでいるのか。
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