序章

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人を斬る。 今日までの彼の生涯で、恐らく最も多く行ってきた行為。 眼前に迫る刃を弾き、返す刀で腹を斬る。 崩れ落ちる相手を見届けることなく、振り向きざまに背後の二人の首を跳ねる。 血飛沫が舞う。 今日だけで何人斬っただろうか。 彼の全身は血で赤く染まっていた。 いくつか手傷を負ったが、ほぼ全てが返り血だった。 手に持つ刀だけが、妖しく銀色に煌めいている。 彼は疲労困憊だった。 荒く乱れた息を整える間も無く、襲い来る刺客。 雨が上がったことさえ気付かなかった。 一日中刀を振るっていた。 背後には、足跡代わりの無数の死体。 歩みを進めた分だけその数が増えていった。 真正面から、男が刀を振り上げ雄叫びと共に突っ込んでくる。 泥を跳ね、彼も接近する。 剥き出しの殺意を、それ以上の怒りで迎え撃つ。 その刀が振り下ろされるよりも先に、彼の刀の切っ先が男の喉元に深々と突き刺さった。
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