序章

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その男は緩慢な動きで立ち上がり、フッと飛び降りる。 見た目にそぐわぬ柔らかな着地。 ほとんど音もなく地に降り立った。 彼よりも一回り大きな体躯。 丸太のような腕。 草鞋を履くその素足は熊のように逞しい。 そして、編み笠から覗く修羅の如き形相。 まさしく『鬼』。 そう呼ぶに相応しかった。 『鬼』は無表情で立っている。 腰の刀を抜く素振りもない。 しかし、隙は無かった。 滲み出る強さ。 今までの有象無象とは次元が違う。 勝てる可能性は万に一つ。 頭では分かっている。 それでも彼に恐れはなかった。 あるのは『鬼』に対する怒りのみ。 それが激しく燃え広がり、彼の頭を支配する。 刀の切っ先を『鬼』へ向ける。 「……貴様だけは」
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