序章

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十歩の間合い。 「貴様だけは、この手で」 刀を両手に持ち、上段に構える。 「殺す……!」 言い切るや否や、一息に間合いを詰める。 相手は『鬼』。 小細工は通用しない。 全身全霊。狙うは必殺の一撃。 踏み出し。 力の入れ具合、抜け具合。 剣の軌道。速度。 全てが理想的だった。 頭頂から股下まで『鬼』を両断する軌道で、刀を振り下ろす。 刹那、彼は見た。 『鬼』の顔に浮かぶ落胆の色。 吐き出す呼気は溜息だろうか。 彼の人生最高の一太刀は、虚しく空を切った。 編笠の縁さえ掠らない。 『鬼』は僅かに足をずらしただけだった。 彼は即座に切り替え、刀を斬り上げようとする。 しかし、二撃目が放たれることはなかった。
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