0人が本棚に入れています
本棚に追加
両手で引き剥がそうとしても、宙に浮いた足で蹴りつけても、『鬼』は意に介さない。
徐々に圧を増していく『鬼』の屈強な手。
「ああああ!」
割れそうな頭の痛みに絶叫する。
『鬼』が刀を投げ捨てる。
それだけが辛うじて見えた。
「お前には失望した」
頭蓋を握り潰される直前、激しく揺さぶられ体が宙を舞う。
投げ飛ばされたことに、数瞬の後に気付いた。
地面に叩きつけられた痛みより、『鬼』の手から解放された安堵感の方が大きかった。
刀の捨てられた方向に、一瞬目をやる。
刀は、運良く下り斜面のほんの手前で止まっていた。
斜面の先には崖が、その下には川が流れている。
刀無しに挑むのは無理だ。
どうしても刀が必要だった。
懐から投擲用の小刀を取り出し『鬼』へと投げ、同時に駆け出す。
見届けることはしていない。
成果は期待していなかった。
最初のコメントを投稿しよう!