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「…あおい?」
柚くんがはっとしたように私をのぞき込む。
「ヒロヤクンの本気が見られて満足だからぁー、逮捕されてあげてもいいけどぉー」
遠くから、カズマさんの声がする。
「…ウサギチャンに早く解毒剤飲ませないとねー」
愉快そうな笑い声が響き、屈強な男性たちに引き連れられたカズマさんが近づいてくる。
私を抱きしめたままの柚くんに、
「ホント、ウサギチャンのことになると見境ないね、ヒロヤクン」
楽しそうに話しかけるカズマさんの声が聞こえる。
「ハワイに飛んでもらうはずだったのに、戻ってきちゃってさぁ。まあ、どっちにしても、ハワイに行かないとね。ボクの手伝いしてくれたら、解毒剤渡してアゲルからぁ―――」
タガが外れたようなカズマさんの笑い声。
朦朧とする意識の中で、
「(柚くん、ごめんね)…」
柚くんを窮地に追い込んでしまったことを悟る。
…ごめんね。
柚くんの役に立ちたかったのに。
私の声が聞こえたかのように、柚くんがもう一度優しく唇に触れた。
優しすぎて泣きたくなる。
柚くんが遠くに行ってしまいそうで怖い。
「(だいす、)き…」
世界一大切な柚くんの腕の中で、意識が途切れた。
あとはただ何もない暗闇に落ちていく。
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