【11】本家

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幸宏の怪我は重かった。 利き腕の骨折と肩の脱臼に、他にも打撲が多数。何をすればそこまでの怪我ができるのだろう。 聞くと、彼はバツが悪そうに答えた。「鉄棒から落ちた」 身軽に、くるくる回っていた姿しか記憶にないから、落ちた姿が想像できずに絶句する。 「バカやっちゃったんだよ」 苦笑と苦痛に顔を歪める彼は言う。 「慢心のバチが当たったんだ」と。 仕事どころではなくなった幸宏は、一旦実家へ戻ることにしていたと言った。 「さっちゃんが毎日でも来てくれるとわかってたら、ここに残ったんだけど……。でも、たとえわかってても長く通わせるわけにも……いかないしさ」 彼女を気づかってのことだ。 独身の男の元に女性が通う。それも家政婦でもお手伝いさんでもないのに。自分より幸子の評判を気にした。 そんなこと。今さら気にしなくてもいいのに。 自分は、もはや汚れなき白百合のような乙女ではない。 彼女は幸宏に過去の『結婚』について知らせた。賢い彼のことだ、それ以上のことも……きっと知っている。学校内で幸子の過去の顛末が尾鰭端鰭くっついて面白おかしく語られているのは周知の事実だ。早晩彼の耳にも彼女の良からぬ行状が伝わっていてもおかしくない。 でも、彼は言うのだ、「君は大切な人、道端に咲く小さい青い花のように可憐な女の子だから、僕は大切に守る」と。 彼がそう言いながら指し示す青い小花の和名はオオイヌノフグリという。花の容姿からはかけ離れた名前の由来を教えたらひどく驚いていたが、「可愛い花なのに名前で損している」と全く意に返さない。 帰郷する彼を見送った時も、まだ長い距離を移動できる身体ではないのに、自分のことより彼女を心配した。
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