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小父や小母に押し出されて、幸宏の元へ向かう道中、車窓の風景に心躍らされる暇もなく、不安で胸がいっぱいになる。
何度も幸子の胸中に去来するのは、心から頼みとするのは幸宏の存在と彼が彼女に伝え続ける言葉の数々。
信じて。僕を信じて。
――信じるわ。
元より持てるものは他に何もないのだから。
とはいえ、初めて降り立つ異境の地はよそよそしく彼女を迎える。膝がかくかくと笑い、つま先がもつれそうになりながらホームに足を下ろした。
君に合うと言われ、誂えてもらったおろしたてのスカートの裾がふわりと拡がる。
贅沢に布地を使ったフレアスカートは、パニエを下に履くともっと豪華にゆるやかなシルエットを描く。まるで絵本や少女雑誌に添えられた挿絵の、お姫さまのドレスのように。
彼からの心づくしの贈り物だ。
大丈夫。私、お姫様にはなれないけど、彼が恥ずかしくない女性として振る舞おう。
背筋をぴんと伸ばした時だった。雑踏の中から彼女を呼ぶ声がしたのは。
「さっちゃん!」
嬉々とした、ほがらかな声が彼女を呼ぶ。
幸子は作り物ではない心からの笑みを浮かべて彼の元へ駆けた。
初めて見せるスカートの裾がなだらかに揺れる様が見えるようにひらめかせて。
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